森景子の原点

「君はなぜピアノを弾いてるのか。何のために弾いてるのか。これは常に考えないといけない。」

師である花岡千春先生から、いただいた言葉だ。

23歳の私には、その意味を理解できなかった。

毎日練習をし、ステージに立ち、レッスンをし、目の前のことに必死だったからだ。

それでも、その問いだけは、ずっと心の中に残り続けた。

「私は、なぜ音楽を続けているのだろう。」

その答えがわからないまま、時間だけが過ぎた。

もっと上手く弾きたい。

もっと認められたい。

この思いが強くなるほど、ステージに立つことが怖くなっていった。

「なぜ、いつもうまくいかないのだろう。」

私は少しずつ、自分の内側に耳を傾けるようになった。

見栄、プライド、これらを手放したとき、残ったのは「呼吸」だった。

深く呼吸ができている時、身体の力が抜ける。

音楽と一つになれる。

音楽をしているのではなく、呼吸がそのまま音楽になっていくような、不思議な時間だった。

私にとってピアノを弾くことは、自分の呼吸を取り戻す行為である。

日常の中で、呼吸が浅くなってしまう日もある。思うようにいかない日もある。

それでもピアノの前に座ると、自分の呼吸に戻ることができる。

音楽は、人生の苦しみをなくしてくれるわけではない。

それでも、美しいものに触れた時、

「よし、もう少し生きてみよう。」

そんなふうに、呼吸が深くなり、お腹に力が湧いてくる。

私にとって音楽とは、自分の呼吸を取り戻し、明日を生きるための道標なのである。

だから私は、今日もピアノを弾く。

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